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木造童子形男神立像

正圓寺に伝来する木造男神立像は、釈迦堂内陣の向かって右側に安置される厨子入りの彫像である。忿怒相を示した童子形の立像で、尊名は不明である。
中尊となる男神は、玉眼を嵌入した彩色像である。頭髪は天に向かって逆立ち、環状の金泥で彩色された宝冠を戴く。宝冠の両端には冠垂飾を付ける。宝冠は頭部と共木で彫出し、冠垂飾は金属製である。眉と眼は吊り上がり、忿怒の相を見せる。左方向を見つめる。鼻は大きく、頬の張りは豊かで、口唇は閉じる。頭部後方から両肩にかけて、蛇を模したような天衣が一条巻き付く。天衣の両端は、右肩上蛇が鎌首を構えるように上を向くが、端部が欠失しているため、蛇頭があらわされていたかどうかはわからない。左肩からは、蛇の尾のようにくねって垂下している。
尊名は不明だが、逆立つ髪、忿怒相、赤い肉身、持物に弓矢を執ること、火焔光を伴った赤い円相などは、愛染明王の指標である。ただし、愛染明王の像容は、一般的には一面六臂の坐像である。醍醐寺本の『図像抄』には、一面二臂の愛染明王の姿が描かれるが、これも坐像である。愛染明王の信仰に影響を受けていることは疑いないが、愛染明王として造像されたものではないかと考えられる。
弓矢を執り、まさに何かを射ようとする姿をとらえた構図で、武神、戦闘神としての要素を示している。海上に浮かぶ亀に乗ること、蛇が巻き付くような天衣を表現すること、龍を衣に描くことなどは、水神の要素である。
正圓寺には、生玉宮寺の一坊であった成就院の九曜星像が伝来している。また、天川弁才天曼荼羅や般若菩薩坐像とともに、一説には、本像も生玉宮寺からの伝来ともされる。
この男神像は、武神・水神・愛染明王・日神・月神・羅睺星など、さまざまな信仰の要素をあわせ持つもので、神仏習合思想の影響下で制作された神像である。銘記を伴わず、尊名や由緒は不明であるが、多様な信仰が混交しつつ造立された、大坂とその周縁部における神仏習合の影響を考えるうえで、貴重な史料のひとつである。

大阪市指定文化財
(大阪密教美術保存会「正圓寺の仏像について」より抜粋)